ワイヤーロープの種類は構成記号からわかる!用途に最適な選び方
ワイヤーロープとは
ワイヤーロープはスリングの一種で、ワイヤーを撚り合わせて作られたストランド(小縄)を複数本より合わせて作ったロープのことです。素材は、ステンレスやスチールでできており、他の繊維スリングやチェーンスリングと比較して引張強度が高い点が特徴です。また柔軟性に富み、耐衝撃性、耐摩耗性にも優れています。
クレーンで荷物を運搬する玉掛け作業のほかにも、エレベーター、航空機、船舶、土木建築などの吊るして固定する用途で使用されています。
ワイヤーロープの構造
ワイヤーロープは、中心の心綱にストランドというワイヤーが複数本より合わさって構成されています。さらにストランドも、心線を中心に側線がよりあわさっていますので、ワイヤーロープは全体的に”撚る”ことによって形作られています。
ワイヤーロープの性質は、ロープや・ストランドのより方向やストランドの本数によって異なりますので、購入時には表記をご確認ください。
ロープ・ストランドのより方
ワイヤーロープは、ストランドのより方向とロープのより方向によって「普通より」と「ラングより」の2種類に分類されます。
普通よりは、ロープのより方向とストランドのより方向が違います。耐摩耗性は劣りますが、ロープとストランドのより方向が逆であるためキンクを起こしにくく扱いやすいのが特徴です。
キンクとは?
ワイヤーロープが折れ曲がって元の形状に戻らない状態になることを「キンク」と言います。キンクが一度生じた部分は、元に戻しても強度は永久に弱くなります。切断事故につながる恐れもありますので、不良品はすぐに交換してください。
ラングよりとは、ロープのより方向とストランドのより方向が同じものです。表面に表れている素線が長く、ロープ表面が円滑であるため摩耗に強いのが特徴です。ロープとストランドのより方向が同じであるため、同じ方向に力がかかり、よりが戻りやすくロープが回転しキンクが起こりやすい点がデメリットです。
そしてそれぞれに「Zより(左より)」「Sより(右より)」があります。ワイヤーロープは荷重がかかるとよりを戻そうとする力が働きますので、玉掛け作業などにはZよりとSよりを組み合わせて使用することで、力を相殺して回転を防ぎます。(「抱き合わせ加工」と呼びます。)
ストランドの種類と撚り方
ストランドは、通常7本から複数本がより合わさって構成されています。より方は、「交差より」と「平行より」の2種類があり、ロープの性能に関わります。
交差より
交差よりは、ほとんど同じ半径の素線を各層同じ長さになるように組み合わせてより合わさっています。素線同士が点接触となっており、「点接触より」とも呼ばれます。各素線に対する引張応力は同じになりますが、素線の並びによってできた凹凸の間に外層の素線が接しますので、曲げによる金属疲労が起こりやすいです。現在では平行よりのストランドが利用されることが多いですが、安価であることから使用しているものもあります。
ストランドの数は、7、19、24本、37本の素線で構成されています。7本の場合は素線が1層しかなく外側の素線と中心の素線は線で接触しているので、平行よりにも近いと言えます。また、素線の数が多くなるほど、撚りの工程が必要であるため37本よりはあまり利用されていません。
平行より
平行よりは異なる径の素線を組み合わせて、下層の素線の間に上層の素線が隙間なく重なる構造になっていて、素線同士が線で接触しているため「線接触より」とも呼ばれています。平行よりは、素線同士の摩耗(内部摩耗)や金属疲労による断線が起こりにくいため、曲げの影響にも強くなります。また素線同士が密に並んでいるため、型崩れの変形が起こりにくいのも特徴です。
平行よりのストランドはさらに、「シール形」「フィラー形」「ウォーリントン形」「セミシール形」「ウォーリントンシール形」があります。
シール形(Seale)
シール形は、各層の素線数は、1+n+nになっていて、内外層の素線数が同じです。内層素線の凹みに外層線が完全に収まっており、他の平行よりに比べて外層線が太くなっています。
一般的にワイヤロープは、ストランドに含まれる素線の径が太いほど耐摩耗性が増しますので、主にエレベーター用など摩耗に強いワイヤーロープが求められている際に重宝します。
フィラー形(Filler Wire)
フィラー形の各層の素線数は、1+n+(n)+2nとなっており、外層の素線の数は内層の素線の数の2倍となっています。そして内外層の間に細いフィラー線が入っていて隙間がなくバランスが良い構造です。柔軟性、耐疲労性、耐摩耗性が高いため、平行よりロープの中で最も広範囲に使用されています。
ウォーリントン形(Warrington)
ウォーリントン形の素線の数は、1+n+(n+n)となっていて、外層素線数が内層素線数の2倍となっています。外層の素線の径には大小種類有りますが、素線径の差が最も少ないストランドです。柔軟性と強度の面では欠点が少ないロープですが、外側に細い素線があるため、耐摩耗性は劣ります。
ウォーリントンシール形(Warrington-Seale)
ウォーリントンシール形は、ウォーリントン形とシール形を組み合わせたものです。素線の数は、1+n+(n+n)+2nで、最外層に太い径の素線を配置しています。柔軟性、耐疲労性に優れた用途の広い高強度のロープです。
セミシール形(Semi-Seale)
セミシール形は、シール形と交差よりを組み合わせた形で、中心の7本よりの周りに2層の同数素線が合わさった構造です。耐疲労性が比較的良好なため、ユニロープなど様々な用途で使用されています。
異形線ロープ
ストランドの撚り方には、これらのほかにも、断面が三角形や楕円形などの異形線で構成された破断荷重が高いロープもあります。ロープ表面の凹凸が小さいため、摩耗しにくく、型崩れも起こしにくい傾向があります。
心綱の種類
心綱が繊維でできているものと、鋼でできているものがあり、前述した交差よりロープと、平行よりロープは、繊維心と鋼心(金心)に分類されます。
繊維心は、天然繊維である麻やポリプロピレンをより合わせたものです。柔軟性に富んでいて、ロープに加わる衝撃や振動を吸収できるため、玉掛けの現場で多く使用されています。
鋼心には、ストランドを用いるストランド心とワイヤーロープを用いるロープ心があります。ストランド心は、IWSC(Independent Wire Strand Core)と表記され、周囲のストランドと同じ構成となります。ストランド心は、柔軟性に乏しいのであまり使用されていません。
ワイヤーロープ芯は、IWRC(Independent Wire Rope Core)と呼ばれ、通常7×7のワイヤーロープが使用されます。同径のワイヤーロープと比べると質量が重くなりますが、破断荷重が大きい、ロープがつぶれにくい、伸びと径の減少も少ないことから広く使用されています。
JIS規格で定められている種類
JIS(日本工業規格)では、ワイヤーロープの種類が定められています。それぞれに特徴や用途、破断荷重などがあります。
ロープは通常3~9本のストランドがより合わせられて構成されていますが、バランスの取れた6ストランドがほとんどです。エレベーター用のように特に柔軟性が求められる場合には、8ストランドのものが使用されたり、非自転性が求められる現場では、ストランドを2層以上とすることもあります。
よく使用されるJIS規格のワイヤーロープの種類をご紹介します。
6×7
「6×7」(旧:1号)は、7本の素線で構成された交差よりストランドを6本組み合わせたロープです。各素線同士が線接触していて摩擦力が分散されるため、耐摩耗性に優れます。そのため、主な用途には鉱山巻き上げ、索道、スキーリフトなどがあります。柔軟ですが、キンクを起こしやすいというデメリットもあるため、取り扱いには注意が必要です。
6×19
6×19(旧:3号)は、同径の素線を各層別に交差よりで構成されたストランドを6本より合わせたロープです。素線がロープ軸にほぼ平行となっているため、キンクが発生しづらく、型崩れも起こしにくいのが特徴です。
6×24
6×24(旧:4号)は、24本の素線を撚ったストランドが6本構成されているロープで、素線数が多くストランドの中心に繊維心が入っていて柔軟性に優れています。玉掛スリングに用いられます
6×37
6×37(旧:6号)は、37本の素線を撚ったストランドが6本構成されているロープです。玉掛や巻上げ索などに使用されています。
6×Fi(25)
6×Fi(旧:14号)は、フィラー形のストランド(25本より)がワイヤーロープの周辺に6本より合わさったワイヤーロープです。素線同士が線接触しているため、耐疲労性が高く曲げに強いといった特徴があります。
6×Fi(29)
6×Fi(旧:13号)は、フィラー形のストランド(29本より)が6本合わさったワイヤーロープです。建設機械やクレーン、荷役作業などに最適です。
IWRC 6×Fi(29)
IWRC 6×Fi(29)(旧:18号)は、7×7+6×Fi(29)とも表され、中心部に7×7のフィラー形ワイヤーロープがあり、その周囲に29本よりのフィラー形ワイヤーロープがある構成となります。素線の数が多く強度が高いため、高温な場所や重量物を吊り下げる場合におすすめです。
7×7
7×7は標準的なスペックを持つステンレス製のワイヤーロープです。7本の素線をより合わせたストランドが7本合わさっています。ステンレスですので、鉄製に比べて耐錆性に優れており、鉄鋼業や林業での使用からレジャーまで幅広い用途で使用されています。
7×19
7×19は、19本の素線をより合わせたストランドを7本組み合わせたステンレス製のワイヤーロープです。7×7と同様に鉄鋼業、林業、レジャーなどの静索・動索に利用されています。
メッキ
ワイヤーロープは、めっきされていない裸ロープが一般的ですが、湿気の多い場所など耐食性が重要視される場所には、メッキが施されたロープが使用されます。亜鉛めっき、すずめっき、アルミめっきなどがありますが、亜鉛メッキが最も多く使用されています。
塗油
ロープの製造時には、ロープグリースが塗油されています。グリースの成分によって「赤グリース」「黒グリース」に分かれていますが、いずれもさび止め性、潤滑性、塗布作業性に優れています。赤グリースはペトロラクタム、マイクロワックスなどが主成分、黒グリースはアスファルトなどが主成分となっています。赤グリースは、色が淡いためロープの点検が容易になります。
使用荷重
ワイヤ―ロープには使用荷重が定められてます。使用荷重以上の荷物を吊り上げると、作業中に切れてしまい、落下事故などに繋がりますので、使用荷重を正しく理解して遵守することが大切です。
使用荷重は一般的に、「kg」や「kN」で表され、1kN=102kgとなります。JIS規格でもE種類、G種、A種、B種という種別が定められていますので、参考にしてください。
使用荷重と破断荷重の違い
ワイヤーロープには、使用荷重と破断荷重があります。使用荷重は安全に使用できる荷重で、破断荷重は引っ張る力に耐えきれず破断(破損)してしまう荷重です。
「破断荷重が510kg」「使用荷重が160kg」とされている場合、使用荷重の160kgの範囲内で使用しなければなりません。
使用荷重一覧
JIS規格のロープには、安全荷重が定められています。1点吊りと複数吊りで荷重も変化しますので、吊り方に合わせて選択してください。
6×24 裸(%) A種 JIS規格品 安全係数6 単位:トン
※なるべく60度以内の吊角度で作業してください※ワイヤーロープの種類や吊り方によって安全荷重が異なりますのでご注意ください。
ワイヤーロープの使用前点検をお願いします。
6×24%ワイヤ荷重の公式
6×24%のワイヤロープの荷重は、計算で調べることができます。現場で荷重を知りたい場合は、こちらの公式でご利用ください。クレーン等安全規則213条では、「ワイヤーロープの安全係数は、6以上でならない」と定められていますので、6以上で計算されます。
【使用荷重】
基本使用荷重(t)=(ロープ径×ロープ径)÷20÷6
【破断荷重】
破断荷重(t)=(ロープ径×ロープ径)÷20
(安全係数・全然率=6)
ワイヤーロープの太さ
ワイヤーロープのロープ径とは、外接円の直径を表します。測り方は、ロープの端末から1.5mを除いた部分を2箇所以上測定して、その平均値とします。
ロープ径は太くなるほど強度が増します。一般的に玉掛け作業には30mm以上のワイヤーロープが利用されています。
同一径のロープでは、ストランド数が多くなるとストランド径は細くなり、ロープは柔軟性を増しますが、反対に強度や耐摩耗性は低くなり形状が崩れやすくなります。
ワイヤーロープの略号
ワイヤーロープの商品には、構成、より方、メッキの有無、ロープ径などを構造記号という略号で表されていることが多くあります。
「6×24 G/O」の場合は、「素線の数が24本、ストランドの数が6本、めっき有り、普通Zより、赤ロープグリース塗り」という意味になりますので、下記の表を参考にしてください。
また、その後に続いている「B種 16mm 250m」という表記は、「JISのB種、ロープ径が16mm、250m」ということです。
<表1.ワイヤーロープの表記>
ワイヤーロープの選び方まとめ
ワイヤーロープを選ぶ際には、使用荷重を守り安全に作業することが最も大切です。そのほかにも、より方や太さ、ワイヤー径などが異なりますので用途に合わせてお選びください。また、長期的に使用するためには金属の弱点である錆びから守る必要がありますので、湿気の多い場所などでは耐食性の高いステンレス素材やめっきされた素材がおすすめです。
トラデポでは、主に玉掛けやクレーン用のワイヤーロープを多数取り揃えておりますのでお気軽にご相談ください。